Writer's View
日産自動車の船舶部門「日産マリーン」が撤退するということで、2015年4月に製造を引き継いでスタートした会社です。日産自動車が船を作っていたというのはあまり知られていないのですが、私もエンジニアとして船の開発に長年携わっておりました。
現在は自社ブランドの『NJMブランド』小型プレジャーボートの設計から生産を行っています。
弊社の特徴は、カタマラン型(双胴型)のプレジャーボートの生産をしているところです。
船体を二つ並べたような構造で、波や風による揺れに強いのが特長です。
小さくても安定しますので、小型のボートが好まれる日本に適している形状だと思います。
この利点を活かし、水上タクシーとしても東京都内を航行しています。
カタマラン型プレジャーボートは、日本国内では弊社だけが製造をしています。実は日産時代に私がこのカタマラン型の設計に携わりました。
設計が難しく、作る側からすると大変作りにくい形ではあります。
しかし、その製造ができるというのが弊社の自信・強みであると思います。
2年前、大分県産業創造機構で開催された『衛星情報利活用セミナー・個別相談会』があり、参加しました。
衛星データというと以前からGPSを利用できないかという話はありました。
ボートは海上にありますから、波や風にのって動きます。
風で流されないようにその場に留めておくという装置ができないかと、30年くらい前から試行錯誤をしていました。電気モーターを使ってみたり、いろいろ試し、製品化もしましたね。
位置情報を取得するのにGPSも考えましたが、当時のGPSのデータはm単位で誤差が生じていました。
これでは船の方向や位置が正確にわからない。
衛星データを使うのは無理だろうと思っていました。
ところが、セミナーで衛星測位システム『みちびき』の話を聞き、精度のすごさに驚きました。
1,2cmのレベルで正確だったんです。
セミナーのあと、講師で来られていた株式会社minsoraの高山さんに、今までGPSの利用を考えたことがあるが断念したこと、ボートの離着岸の問題点、ボートにみちびきのデータが活用できないだろうかと相談をしてみました。
すると、受信するみちびきのデータを1つだけではなく2つ使ったらどうかなど、私にとっては目から鱗が落ちる様なアドバイスをいただきました。
精度が高くなれば船の位置だけではなく、どの方向に向いているかもわかります。
大きさに関係なく、すべての船の離着岸に応用できる装置ができるかもしれないと思いました。
はい、開発は大変でしたね。というのも私たちは船屋であり、通信や衛星については全くの素人です。
産業創造機構の方々や高山さんに、いろんな専門会社の方とつないでいただきました。
とても船屋だけではできないことです。
おかげでみちびきを用いた船舶の離着岸・操船システム『ピタットシステム』の開発に辿り着きました。
現在も開発中ですが、今年の夏には試作機ができ実験予定です。
昨年、内閣府のみちびきを利用した実証実験公募で採択されたことが大きく、様々な会社から協力依頼や問い合わせをいただいています。大手メーカーからも一緒にやりたいと注目してもらえるようになりました。
そのおかげでさらに専門的な知識も集まってきており、先々おもしろいことになるんじゃないかと思っています。
実は去年も応募したのですが、まだ事業の進捗が浅く、一次審査で落ちていました。
今年は特許をとっていたことや、内閣府の実証実験を行っていたこともあり、受賞できたと思います。
開発・実験をするための試作機を製作するのに数百万円はかかります。
これは中小企業にとってはとても痛いのですが、開発スピードを緩めるわけにもいきません。
今回の受賞でいただくような補助金があると、開発を進められるので大変ありがたいですね。
本当にいいきっかけになったと感じています。
まずは今年中に商品化の目処をたて、いい形に持っていくということですね。
新しいことをするというのは本当に大変で孤独を感じることも多々あります。
日産時代からいろんなことにチャレンジして、挫折も経験してきました。
でもチャレンジしなくなったら終わりだと思っています。
今後も商品化がゴールでなく、新しいことを考えていかなければなりません。
しかし、そこには新しい人材の育成が課題となってきます。
今までと違い、ボートの製造だけではなく、測位や電気、通信などすべての技術が必要になってくると思います。
最近は注目をされてきたおかげで、大学側から弊社に興味を持っている学生がいると連絡をいただくこともあります。
まだまだ小さい会社ですが、人材の受け入れ態勢を整えて、ニュージャパンマリン九州の新たなチャレンジを続けていければと思っています。